社会地質学会誌
第16巻 第1/2号 2020年

論 説

沖縄トラフ、伊是名海穴、Hakurei サイトにおける海底熱水沈殿物の風化過程
初川 悠・中島和夫・湯口貴史
 中部沖縄トラフ伊是名海穴のHakurei サイトにおいて,北部マウンドと南部マウンドの2 カ所の活性熱水ベントサイトが近年発見された.この2 つのマウンドから5 つのサンプルについて顕微鏡観察,XRD,EPMA を用いて鉱物の沈殿と酸化分解作用について検討した.北部マウンドのサンプルには初生鉱物として重晶石,閃亜鉛鉱,磁硫鉄鉱,黄鉄鉱,方鉛鉱,濃紅銀鉱が観察され,一方南部マウンドのサンプルには重晶石,閃亜鉛鉱,黄鉄鉱,方鉛鉱,ヨルダン鉱,ジオクロン鉱,方キューバ鉱が含まれていた.2 つのマウンドの最も顕著な違いは,北部マウンドでは磁硫鉄鉱が晶出するのに対し,南部マウンドでは鉄の硫化物として黄鉄鉱のみ産することである.北部マウンドでは磁硫鉄鉱は水酸化鉄と自然硫黄に分解し,方鉛鉱は硫酸鉛鉱に変化していた.一方、南部マウンドではFe 硫化物として黄鉄鉱のみが存在し、それが水酸化鉄に変化し,方鉛鉱はミメット鉱と白鉛鉱に変化していた.
 北部マウンドは厚い堆積物に覆われるカルデラ底部に位置しているため,還元的になりpH の低下をもたらす.一方南部マウンドはカルデラ壁に位置し,強い酸化作用によって風化分解が進む.最終的には海底に露出した鉱石のすべての鉱物と沈殿物はその表面から数〜数十cm が分解し,As やPb,S などの有毒元素が海水へ溶解する.
Okinawa Trough, Izena cauldron, Hakurei site, hydrothermal deposit, weathering rind

沖縄トラフ、伊是名海穴、Hakurei サイトにおける海底熱水沈殿物の風化過程

八代海の泥質干潟の地形変化における2016 年熊本地震の影響
秋元和實・日本ミクニヤ株式会社・株式会社東陽テクニカ
 調査海域の八代海湾奥は,泥質干潟が広がり,不知火干拓地 (着工:1951 年7 月,竣工:1967 年9 月)の造成後に底質や水質の悪化が懸念されている.熊本県が2006 年に実施した八代海の海底の地形シミュレーションをおこなった.この結果から,10 年後に浅海化することが予想されたが,2018 年の測量結果は水深が14 p深くなったことを示した.そのため,地形シミュレーションの精度を検証する必要が生じた.
 予想と結果が異なった原因を検討するために,シミュレーションに含まれていない因子(潮位の地域差,気象,地盤の変動)を調査した.調査の結果,@潮位観測地点の違いはほとんど影響しない,A梅雨期の堆積と波浪による浸食が認められたが,年間堆積量は2016 年熊本地震の前後でほぼ同じである,B海域の東岸で地震の前後で堤防が沈下(5〜28cm)していた.これらのことから,可能性の高い水深の増加の原因は,海底の浸食より地盤の沈降と考えられる.
Muddy tidal flats, 2016 Kumamoto earthquake, topographic change, land subsidence, Yatsushiro Sea

八代海の泥質干潟の地形変化における2016 年熊本地震の影響