社会地質学会誌
第15巻 第3/4号 2019年

論 説

地質学に立脚した地下水法制度の検討 ―私水と公水の共生について―
嶋 洋・楡井 久
 日本には,地下水を保全する法制度が存在しておらず,具体的な法定方法の検討が急務である.一番の法的課題は,地下水はすべて個人の所有物と考えられている点である.地下水を管理し,保全を進めるためには,私権の対象と考えられている地下水を公水化することが求められる.しかしながら,公水化を実施するには私権の侵害を回避する必要がある.また,地下水流動システムも超深層地下水までの把握は困難であり、地下水すべてを包含した法定管理は現実的ではない.そこで,日本最大の関東地下水盆の中央部に位置する野田市において,地質情報と地下水の利用実態の検証を行い、地下水の法定管理の可能性について研究を行った.この結果,野田市周辺においては,表層から深度40m までの地下水を私権の及ぶ範囲とする一方,大深度地下法において使用権が設定できる深度40mから深度250m までを公水とすることが,日本の社会制度に馴染み,現実的で私権に対する影響が少なくなることを示した.地下水の公的管理の範囲を決定するためには,地質構造と地下水の利用実態を把握することが重要であり,地下水の自然特性を加味した法制度を構築しなければならない.
Groundwater ownership, Groundwater law, Public management, Depth variation on economic value

地質学に立脚した地下水法制度の検討 ―私水と公水の共生について―

短 報

沖縄トラフ産鉱石が示す化学組成の特徴 −特に金含有量について−
村尾 智・佐藤千穂・中島和夫
 沖縄トラフの熱水性鉱床から採取された鉱石には微量の金が含まれるとの報告があるが詳しい記載はなされていない.そこで,筆者らは中性子放射化分析法(NAA)によって同トラフ産鉱石の化学組成を調べた.金はほとんどの試料から検出され,その範囲は0.12〜5.09ppm であった.金の他には,銀,亜鉛,銅,砒素,アンチモニー,マンガン,バリウムが検出された.金はいずれの元素とも相関関係を示さないのでその存在様式についてはさらに研究が必要である.
gold, neutron activation analysis, JADE site, Okinawa Trough

沖縄トラフ産鉱石が示す化学組成の特徴 −特に金含有量について−